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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)139号 判決

控訴人 赤池正美

被控訴人 国

訴訟代理人 杉浦栄一 外二名

主文

原判決をとりけす。

被控訴人の第一次の請求を棄却する。

北沢常雄が別紙目録記載の不動産について、昭和三十三年八月十五日控訴人との間になした譲渡担保設定契約はこれをとりけす。

控訴人は同目録記載の不動産について北沢常雄のため所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決をとりけす、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決をもとめ、被控訴代理人は控訴棄却の判決をもとめた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否はつぎのとおりつけ加えるほか原判決の事実らんにしるすところと同じであるからこれを引用する。

(一)  被控訴代理人は、被控訴人国は訴外北沢常雄にたいし昭和三十二年度分および昭和三十三年度分個人再評価税、申告所得税本税加算税合計二百七十一万千百六十円の債権を有しみぎは昭和三十三年七月三十一日までに確定しているものであるとのべ、控訴代理人はみぎ事実は不知とのべた。

(二)  証拠〈省略〉

理由

成立に争ない甲第一号証、同第三ないし九号証および原審証人立石忠勝の証言によると被控訴人国は訴外長野市大字鶴賀緑町一一〇六番地北沢常雄にたいし昭和三十二年度分および同三十三年度分申告所得税ならびに個人再評価税合計二百七十一万千百六十円の租税債権を有しみぎ債権は確定し、その最終納期は昭和三十三年八月二十四日であるがこれを過ぎてもみぎ北沢常雄においてその支払をしないことを認めることができる。

つぎに、控訴人と、みぎ北沢常雄との間で昭和三十三年三月五日北沢常雄の所有土地四筆、建物一棟(この価額計千百万円)を控訴人所有の別紙目録記載の土地一筆、建物一棟(この価額計二百万円)と金九百万円の補足金付で交換する契約をしたこと、その後みぎ北沢は約旨にしたがいその所有の土地建物について控訴人名義に所有権移転登記手続をすませたが、控訴人は北沢にたいし補足金九百万円を支払つただけで、本件土地建物について北沢名義に所有権移転登記手続をしていないことはいずれも当事者間に争ないところである。

そこで被控訴人の第一次の請求について案ずるに、被控訴人は前示北沢常雄にたいする滞納税金債権の保全のため、みぎ北沢に代位し、同人が控訴人にたいして有する本件土地建物の所有権移転登記請求権を行使する旨主張し、控訴人は、控訴人が前示交換契約の後に北沢にたいして二回に合計金百三十万円を貸付けその貸金債権の担保として、交換契約によりいつたん北沢に所有権を譲渡した本件土地建物を譲渡担保として取得したと抗争するので案ずるに、原審証人北沢常雄、当審証人小林久江、同小林久夫の各証言をあわせると控訴人は北沢常雄にたいし昭和三十三年八月五日金五十万円を弁済期の定めなく、利息百円につき一日金三銭の約で貸与し、同年八月十五日さらに金八十万円を貸与し、元本を金百三十万円とし利息前同様、弁済期を昭和三十四年八月十四日と定め、かつその際北沢はみぎ債務の履行を担保するため前記交換契約により北沢所有になつた本件土地建物の所有権を再び控訴人に譲渡し、北沢が弁済期までに前記貸金の返済をしないときはみぎ土地建物は完全に控訴人に帰属すべく、みぎ趣旨で、土地建物の登記は控訴人名義のままとどめておく旨のいわゆる譲渡担保契約をしたことを認めることができる。乙第一号証の一の記載および原審証人立石忠勝の証言、当審証人小林久夫の証言の中、それぞれ前記認定と牴触する部分は当裁判所の採用しないところである。

そうすると控訴人は昭和三十三年八月十五日北沢常雄にたいする前記百三十万円の貸金債権の担保として同人から本件土地建物の所有権の譲渡を受けたもので、みぎ貸金の返済されたことが認められないかぎり、控訴人はこの所有権の取得を被控訴人に対抗することができるから、その余の点について判断するまでもなく被控訴人の第一次の請求は理由ないものといわざるを得ない。

よつて以下被控訴人の予備的請求について判断する。

成立に争ない甲第二号証、成立に争ない乙第一号証の一(前記採用しない部分を除く)、原審証人立石忠勝(前記採用しない部分をのぞく)、原審証人北沢常雄当審証人小林久江、同小林久夫の各証言をあわせると、訴外北沢常雄は昭和三十年ころから数百万円の借財を生じ自己の経営する商店を整理するのやむなきに至つた結果自己の持家を売却するなどして右借金の返済をはかつたが前示交換契約もまた同様の趣旨に出たもので、補足金九百万円は昭和三十三年七月までに控訴人から受領したがそのほとんど全部を借入金の返済にあてなお債務が残存していたこと、したがつて昭和三十三年八月ころは北沢常雄にとつては控訴人と交換して取得した別紙目録記載の土地建物が唯一の財産であつたこと、しかるにみぎ北沢常雄は、同月十五日前記のとおり、交換契約後に控訴人から借受けた百三十万円の貸金債務の履行を担保する目的でみぎ土地建物を控訴人に差入れその所有権を控訴人に譲渡したことを認めることができる。

しかして、訴外北沢常雄の資産状態が以上のとおりであり、昭和三十三年八月十五日ころ同人は二百七十一万千百六十円の税金債務を負担していたこと前記認定のとおりであり、かつ当時その内百二十万円の未払税金額のあることを同人において知つていたことは原審証人北沢常雄の証言によつて明らかであるから、特段の事情がないかぎり同人は、前記税金滞納処分による差押を免れるために故意にその所有の本件土地建物を第三者たる控訴人に譲渡したものと認めるのほかなく、譲受人である控訴人においてその情を知らなかつたことを立証しないかぎり国税徴収法第一七八条、民法第四二四条(旧国税徴収法第一五条)により、被控訴人はみぎ土地建物の譲渡行為をとりけすことができるものといわなければならない。しかして控訴人においてみぎ情を知らなかつたことを認めるにたる証拠はない。

しからば訴外北沢常雄が昭和三十三年八月十五日別紙目録記裁の土地建物につき控訴人に譲渡担保として所有権を移転する旨の契約のとりけしをもとめ、その結果所有権が北沢に復帰したことを理由として、控訴人にたいし北沢常雄のため所有権移転登記手続をもとめる被控訴人の請求は正当として認容しなければならない。

みぎの次第で、被控訴人の第一次の請求は理由がないからこれを認容した原判決をとりけし、予備的請求を理由あるものとして認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 牧野威夫 谷口茂栄 満田文彦)

物件目録〈省略〉

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